ジェロントロジーに関する耳寄りな情報 第4回(ジェロ・マガ Vol.4 [2021年4月21日]より一部抜粋)

このコーナーでは、ジェロントロジーに関連する、日々の生活や今後の生き方に役に立つ、あるいは「耳寄りな」情報をお届けいたします。
今回は、ジェロントロジー総合講座の講義内容を深掘りされたい方にお勧めしたい書籍をご紹介いたします。

—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-

—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-

ジェロントロジー総合講座のジェロントロジー基礎「ジェロントロジーとは?」において、
講師の宮内康二先生から、プラトン、アリストテレス、キケロといった哲学者・思想家の老年観・老人観に関する紹介がありました。
彼らの考えをもっと深く知りたいという方にお勧めしたいのが、
瀬口昌久先生(刊行時は名古屋工業大学教授)が執筆された『老年と正義-西洋古代思想における老年の哲学』(名古屋大学出版会、2011年)という本です。

【版元の書籍紹介】

この本は、先に挙げたプラトン、アリストテレス、キケロのほかに、詩人、悲劇・喜劇作家や、プルタルコス、セネカ等の著作から、
古代ギリシア・ローマにおける高齢者観の移り変わりを整理しています。
講義でも触れられていましたが、古代の哲学者・思想家は、「年老いること」をポジティヴに捉える立場とネガティヴに捉える立場に分かれます。
プラトンは「老化」と「病気」を区別した上で、心身の健康の維持に努めたらより良い老年期を過ごせると考えました。
一方、プラトンの弟子に当たるアリストテレスの高齢者観は後者に属し、老年を「卑屈」「けち」「臆病」なものと捉えます。
著者によれば、こうしたアリストテレスの考えはむしろ当時の伝統的・主流的な考え方であり、老年期を好意的に捉えるプラトンの方がむしろ異端だったようです。
当時の高齢者観に革新を加えたプラトンの立場は、主流になることはありませんでしたが、キケロやプルタルコスのような継承者も現れました。

所謂『プルターク英雄伝』で有名なプルタルコスですが、
彼は今風に言えば「エッセイスト」でもあり、彼の遺した膨大なエッセイは『モラリア(倫理論集)』として今に伝わっています。
その中の一編「老人の政治参加について」において、プルタルコスは、高齢者が「老年であること」を理由に公職から退き、隠遁生活を送るのは良くないと主張しています。
これは、当時のローマ社会において、理想の老後の過ごし方は「余暇・閑暇」に生きることにある、と考えられていたことに対する批判でもありました。
プルタルコスにとって、理想の老後の生活とは、体力や気力の衰えを踏まえつつ、緩やかにこなせる仕事に就いて公共的役割を果たすことにありました。
そして、若者(現役世代)との関係において、高齢者に対しては、

・自分の考えを大胆に発言させる
・過激な言動については諫める
・あら捜しはしない、ただし、意見の誤りは正す
・正しい意見は称賛する
・失敗したら勇気づけて立ち直らせる

などといった、教育的・指導的・後見的な役割を求めます。
これらは今日の私達から見て極めて常識的な内容に映りますが、いざ実践しようとすると思いのほか難しいのではないでしょうか。
私個人の思いとしては、プルタルコスの提示する関係性は非常に理想的なものであり、当機構の目指す姿とも相通ずるものがあるように感じられます。
また、当機構において、こうした若者(現役世代)と高齢者のあるべき関係性を下支えするような仕組み(社会システム)を検討していきたいと考えています。