ジェロントロジーに関する耳寄りな情報 第36回(ジェロ・マガ Vol.36 [2022年8月2日より一部抜粋)
このコーナーでは、ジェロントロジーに関連する、日々の生活や今後の生き方に役に立つ、あるいは「耳寄りな」情報をお届けいたします。
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今回は、デビッド・A・シンクレア氏(ハーバード大学医学大学院遺伝学教授)によって書かれた本、『LIFESPAN(ライフスパン): 老いなき世界』の内容を紹介させて頂きます。
本書は日本をはじめとして世界各国でベストセラーとなったとのことで、読まれた方もいらっしゃるかもしれません。
医学研究に基づいた本書のメインの主張は、「老化とは病気(疾患)であり、治療できる」というものです。
これまで、人間は必ず老化する、ということは常識だと考えられてきました。
しかし著者は、人間は必ず老化するわけではなく、各人のこれまでの生活習慣や活動によって「長寿遺伝子」の働きが妨げられてきた結果として老化が生じているのだと、自身らの研究結果を基に主張しています。
「老化とは病気である」という主張は受け入れられつつあり、世界保健機関(WHO)は2022年から適用される疾患の分類コードの中に「老齢」(小分類で「老化」も含む)を新たに追加しました。
つまり、WHOも老化を病気と認めたとも言えます。病気ならば、治すことができる可能性がある、ということです。
老化が起こる原因は細胞内のDNAの損傷であり、それは細胞分裂や有害な化学物質の接種、放射線、喫煙等の様々な要因で、常日頃から起こっています。
ここで、「サーチュイン」と名付けられた長寿遺伝子が正常に働いていれば、サーチュインによってDNAの損傷の修復が行われ、細胞は正常化されます。
しかし、DNAの損傷修復のためにサーチュインが酷使されてしまうと、修復が追いつかなくなり、やがて細胞が正しく機能しなくなってしまいます。
細胞が正しく機能しなくなった状態が具体的に表れたものが「老化」だと著者は呼んでいます。
では、老化を防ぐためには、どうすればよいのでしょうか。
著者は、長寿遺伝子サーチュインの働きを活性化させればよいと主張します。
そのためには、サーチュインに適度なストレスや刺激を与えればよいとのことです。
具体的な方法としては、以下が挙げられています。
①栄養制限をする:
一般的に推奨される80%程度のカロリー摂取量がよいとのことですが、それを続けるのは難しいので、1週間の食事のうち、数日は1食分抜くという「間欠的断食」を著者は勧めています。
また、動物性タンパク質は避け、できるだけ植物性タンパク質を摂取することを推奨しています。
②適度に運動する:
1日5~10分の軽いランニングでも、まったく運動しない場合と比較すると効果があるとのことです。
③寒さに身をさらす:
サーチュイン遺伝子は快適とはいえない温度の時に活性化するので、少し寒いと思う程度の場所に意図的に身を置くことが推奨されています。
③の方法は少し意外ですが、①や②はよく知られている健康増進法と通じるところがあるように思います。皆様も試してみてはいかがでしょうか。
その他に本書では、将来的には老化を治療するための薬が開発されたり、老化した細胞を最初の状態に戻すことができるようになる方法(山中伸弥教授が発見したiPS細胞の働きによるものとのことです)が開発されるのではないか、といった展望が紹介されています。
老化の治療に関する研究の歴史はまだ新しく、これらの方法の効果があるのかどうかは未知数ではありますが(マウス等では効果が出ているようです)、平均寿命や健康寿命の延伸のためにも期待が持てる研究と言えると思います。
本書は500頁を超える大著であり、生物学や医学の用語もたくさん出てくる箇所もありますが、上記で紹介した内容が科学的知見に基づいて詳細に書かれていますので、もし関心を持たれた方がいらっしゃいましたら、手に取られてみてはいかがでしょうか。