ジェロントロジーに関する耳寄りな情報 第68回(ジェロ・マガ Vol.68[2023年11月14日]より一部抜粋) このコーナーでは、ジェロントロジーに関連する、日々の生活や今後の生き方に役に立つ、あるいは「耳寄りな」情報をお届けいたします。 —-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—- 今回は「高齢者とゲーム」について書きたいと思います。 今月1日、任天堂株式会社が、全国の高齢者施設に同社ゲーム機Nintendo Switchを提供し、高齢者の運動や交流をサポートする事業を開始しました。*1, *2 同社の人気コンテンツである「マリオカート」や「ニンテンドースイッチスポーツ」、「脳トレ」シリーズを高齢者向けに提供することで、遊びを通じて運動や脳機能の向上を目指す取り組みとなっています。 高齢者とゲームという組み合わせは一見珍しく思いますが、なんとYouTubeでは、93歳の女性がゲーム実況をするチャンネルがあります。 「Gamer Grandma」というチャンネル名で活動している森浜子さんは、1930年の2月18日生まれながら、今でもチャンネルを更新しています。*3 さらに、プレイするゲームもかなり本格派で、「バイオハザード」や「スプラトゥーン」、「Grand Theft Auto V(通称グラセフ)」など、高齢の方がプレイするとは思えない、激しいアクションのゲームばかりです。 森さんは40年以上ゲームをされているとのことなのですが、90歳を超えてもなお趣味を楽しみ続け、若者が多くプレイするゲームにも物怖じすることなく挑戦するところに凄さを感じます。 先行研究では、趣味を持っている高齢者に認知症発症者が少ない事例が報告されており、特に趣味の種類が多くなればなるほど 発症リスクが下がることが確認されています。*4 ここで生まれる疑問は、 「いったいどのようにして、ハマれる趣味を持って、続けられるのか」 という点ですが、それを考える上での大きなヒントがあります。 2016年に、当時81歳でスマホアプリ「hinadan」*5を開発し、「世界最高齢のプログラマー」として国連でもスピーチを行った若宮正子さんは、勉強の秘訣として次の3点を挙げています。*6 ・極めようとしない! →「本格的に」や「基本から」はNG! 楽しみ優先で。楽しみながら学んだことは、ものにならなくてもマイナスにはなりません。 ・ためらわない! →「この年で始めても……」「仕事で使わないから……」と、制限をかけているのは自分自身では? 学びたいことがあるなら、ためらってはダメ。 ・どんどん人に聞く! →本でさわりだけ勉強した後は、詳しい人にアクセスして聞く。人に聞くことで新しい人と縁ができ、社会とのつながりも広がるもの。 どうしても、一から丁寧にやろうとして面倒臭くなってやめてしまったり、完璧主義的に完成度を求めすぎて疲れてしまったりすることがありますが、若宮さんのように、楽しく続けられることを前提に没頭することは継続する上で非常に大切なことだと思います。 若宮さんがパソコンに出会ってからアプリ開発にいたるまでのストーリーはこちらでより詳しく紹介されているので、ぜひご覧ください。 <参考資料> *1 任天堂株式会社「Nintendo Switchを用いた高齢者向けイベントに関する取り組みについて」 *2 読売新聞「任天堂、サ高住にスイッチとソフト無償提供…高齢者の脳活性化や交流サポート」 *3 Gamer Grandma *4 Ling LING, 辻 大士, 長嶺 由衣子, 宮國 康弘, 近藤 克則 (2020) 「高齢者の趣味の種類および数と認知症発症:JAGES 6年縦断研究」『日本公衆衛生雑誌』67 -11 pp. 800-810 *5 Apple Store 「hinadan」 *6 NIKKEI STYLE「世界最高齢アプリ開発者・若宮正子 80代の勉強法」