ジェロントロジーに関する耳寄りな情報 第71回(ジェロ・マガ Vol.71[2023年12月26日]より一部抜粋)
このコーナーでは、ジェロントロジーに関連する、日々の生活や今後の生き方に役に立つ、あるいは「耳寄りな」情報をお届けいたします。
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今回は、小林武彦『なぜヒトだけが老いるのか※』(講談社現代新書2707)をご紹介させていただきます。なお、以下1と2は白紙の理解に基づく原著からの抜粋・引用であることにご留意ください。
1 生物学的にみた人の「老い」に関わるFACT
人間以外のほとんどの生物は、生殖機能がなくなるとほぼ同時に、命もシャットダウンする。人間でいう「病」や「寝たきり」の状態はない。それは「ぴんぴんころり」というよりむしろ「シャットダウン」的に、突然死んでいく。仮に、「寿命」を他の生物と同じように考えると、人間の場合は、概ね50台半ば※※が該当するのではないか。
2 FACTからの小林教授の考察・提案
(考察)
進化の過程で、ヒトだけが例外的な存在になった。一見、メリットがなさそうな老化した状態が、なぜ、選択されたのか?
○ヒトは、他の生物には見られない長い老後の期間を獲得してきたが、その理由は、老いたヒトが「シニア」として集団の中で働き、人類の寿命を延ばしてきたからではないか。つまり、「シニア」がいる集団は有利だった。○こうした「シニア」になるために老いが必要だった。なぜならば、老いは、死を意識させ、公共性を目覚めさせるから。
(提案)
高齢者は「シニア」をめざそう!
~ヒトにしかない老後を、社会との関係を維持しつつ公共的に生きてみてはどうか。
○自分が生物学的な衰えを感じ始めたら、次は死を意識する。
この頃から、少しずつ、利己から利他へ、私欲から公共の利益へと 自身の価値観をシフトさせるきっかけとしていくのはどうだろうか。このことが、「人の老い」の意味なのではないか。
○「シニア」とは、年齢ではなく、社会の中での役割を表している。
具体的には、「知識や経験が豊富で教育熱心で、バランスがとれていて、私欲が強くない人」のことをいう。そのような人は、集団においてチームワークや結束力を維持する力に長けている。若い人でもシニア的な人がいるとともに、高齢者でもシニアでない人もいる。ただ、これまでの傾向としては、シニア的な人は高齢者が多かったのではないか。
○少子高齢化・人口減少が進む中では、一定の年齢が来たら引退、ではなく、社会との関係を維持しつつ、シニアとして公共的に生きてみるのはどうか。逆に、「やりたいこと」があったら、若いうちからガンガンやっておくことが重要ではないか。
3 小林教授の考察・提案を受けて
私、白紙は新米「高齢者」です。両親を送った60歳を過ぎたころから、急速に心身の老いを実感しながら過ごしていたところ、この本と出会い、大いなる刺激と力を得るとともに、特に、以下の2点については、引き続き、個人として、あるいは仕事(本ジェロントロジー推進機構や調査研究等)を通じての、検討・実践を心掛けていきたいと念じて考えております。
①「公共的・奉仕的に生きる」とは、具体的にどのような行動が求められるのか。特に、これからの時代に向けた「公共性」をどのように捉え、実践していくか。
②小林教授のご指摘通り、高齢期を、「シニア」として過ごしていくためには、「やりたいことは、若いうちからガンガンやっていく」ことが重要になると思うが、 そうした社会・環境をどのように創っていくか。
〈参考・引用文献〉
小林武彦著『なぜヒトだけが老いるのか』
(講談社現代新書2707) 2023年6月20日
〈注〉
※原著作での言葉の使い方
生物種としてのホモ・サピエンス=ヒトと表記、社会の中で生きる人=人と表記
※※推定の根拠
・ゴリラやチンパンジーの寿命からの推定(ゲノム98.5%同一)
・哺乳動物の総心拍数は、一生でほぼ20億回仮説からの推定
・55歳くらいからがんで亡くなるヒトが急増
=ヒトも本来は、他の哺乳動物同様、がんになる以前に死んでいた