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ジェロントロジーに関する耳寄りな情報 第75回(ジェロ・マガ Vol.75[2024年2月27日]より一部抜粋)

このコーナーでは、ジェロントロジーに関連する、日々の生活や今後の生き方に役に立つ、あるいは「耳寄りな」情報をお届けいたします。

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今回は高齢者の移動支援(交通費助成)をテーマに、札幌市の事例についてご紹介します。

「シルバーパス」や「敬老パス」など、その名称は様々ですが、各自治体では高齢者が利用する地下鉄やバス等の運賃を補助する取組が行われています。利用者の視点では大変便利な敬老パスですが、高齢者の増加に伴う財政負担などから、その廃止や見直しを進める自治体もあります。

札幌市においても70歳以上を対象に、「敬老優待乗車証=敬老パス」の名称で利用されていますが、昭和50年の制度開始から半世紀近くが経過した現在、制度変更の転換点に立っています。

札幌市の敬老パスは昭和50年に市電と一部のバス路線、ロープウェイを対象に無料フリーパスとしてスタートし、当時の事業費(決算ベース)は1.3億円でした。その後に地下鉄路線を対象としたことやバス路線の拡大、高齢者の増加等に伴って事業費は膨らみ、平成16年には過去最高の38.4億円まで増加しました。
平成17年には利用上限額(※1)と利用者負担(※2)を導入したことで事業費は20.7億円まで減少したものの、その後もジリジリと増加を続け、令和4年には37.4億円となり、平成16年の水準を上回るのは時間の問題となっています。

※1利用上限額
平成17年以降は5万円、平成21年以降は7万円を上限。

※2利用者負担
現行では利用額(1~7万円の7段階)の10%~24.3%を負担。

これまで、高齢者の外出を支援し、明るく豊かな老後の生活の充実を図ることを目的としてきた札幌市の敬老パスですが、高齢者の約半数が敬老パスを利用していないことや、高額利用者に支援が偏っているなどの課題も抱えています。制度をより持続可能なものへと転換するため、「健康づくりと社会参加のきっかけを後押しする」こと、「これまでよりも多くの人が活用できるようにする」こととして、2023年11月に『敬老健康パス制度』の素案をまとめ、広く市民からの意見を募集しています。(※3)

※3札幌市の『敬老健康パス制度』(素案)

新制度では、以下のような項目を盛り込んでいます。
①利用先をJRやタクシーにも拡大
②スマホアプリ等を活用してウォーキングや介護予防など普段の活動で得たポイントを公共交通機関等で利用可能とする
③ポイントの交換にかかる本人の自己負担は0円

また、事業費についてはポイントの交換上限額を2万ポイントとすることで、市の公費負担は現行の敬老パスと同規模と試算しています。

従来の交通費助成に加え、新制度では広く利用者の健康増進を促すような制度設計としていますが、皆さんの受け止めはいかがでしょうか。利用者の健康状態や外出の頻度、自家用車の有無など、それぞれの生活スタイルによって新制度の受け止めは様々かと思います。現状、市民からは変更案に対して「実質的な補助額の減額」と捉えるなど否定的な意見も多いようです。

今後さらに高齢化が加速する社会において、各自治体にとって敬老パスの運用は避けては通れない課題のひとつです。賛成・反対意見を含めて市民との対話を丁寧に進めていく事が重要と考えます。

もし、自分が制度の利用者である場合、どのような制度であればより良い制度であるか、健康増進に繋がるかなど、自分事に置き換えて考えて頂きつつ、札幌市の議論の行方にもご注目頂ければと思います。