ジェロントロジーに関する耳寄りな情報 第18回(ジェロ・マガ Vol.18 [2021年11月10日]より一部抜粋)

このコーナーでは、ジェロントロジーに関連する、日々の生活や今後の生き方に役に立つ、あるいは「耳寄りな」情報をお届けいたします。

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近年、アニマルセラピーという言葉が普及しており、動物が人間の健康によい効果を与えることがわかりました。

動物とのかかわりが高齢者の心身の健康にとって良い影響をもたらすことについては、既に様々な視点からの研究・報告が出されており、International Federation of Aging(以下、IFA)は、1980年から2013年までの関連研究を整理しました。
その中では、ペットと高齢者の関係について「ポジティブ指標」と「あいまい、あるいはネガティブ指標」の2点から整理が行われています。
そのうち「ポジティブ指標」は、「身体的健康」「精神的・心理的健康」「精神的健康とウェルビーイング」「社会的健康」「経済的健康」の5つのカテゴリーでまとめられています。
(参考:International Federation of Aging (2014)
「Measuring the benefits: Companion animals and the health of older persons.」)
ここでは、この5つのカテゴリーの内容を簡単に紹介したいと思います。

まず、「身体的健康」への影響について、ペットの飼育により「心疾患集中治療室の外来患者の生存率が高い」、「コレステロール値・血圧レベルが低い」、「ストレスに関わる血圧増加が少ない」、「1年間でのADL悪化の進行が遅い」、「通院回数・薬の支出が少ない」等をもたらすことが挙げられています。
また、犬の飼い主は、望ましい身体活動レベルに達しやすいこと、歩くことや体を動かすことへの肯定的な信念を持ちやすいことが指摘されています。
さらに、アルツハイマー病棟へ水槽を導入することが、高齢者の栄養摂取や体重増加に良い影響をもたらすとともに、サプリメントの摂取が減少し、医療費節減にも効果的であると示唆されています。

第2に、「精神的・心理的健康」に対して、アニマルセラピー(AAT)が様々な効果をもたらすことが整理されています。
例えば、認知症の行動的・心理的兆候(BPSD)における「興奮・攻撃性の顕著な減少」、「注意力・接触・ 発話・笑顔等の向社会的行動の改善」、「抑うつ・不安・ 行動の混乱の改善」が挙げられています。

第3に、「情緒的健康とウェルビーイング」への影響に関して、「自尊感情」、「人生満足度」を向上させるとともに、「孤独感」、「悲哀」、「不安」等を減少させることが挙げられています。
合わせて、近親者との死別の過程に向き合う際、ペットが高齢者にとって重要な役割を果たすことが指摘されています。

第4に、「社会的健康」への影響について、ペット飼育が高齢者に対して公共空間の使用や社会的相互作用、市民的社会参画(civic engagement)を促し、地域への帰属意識を高める役割を果たしうることが論じられています。

そして第5に、「経済の健康」に関して、ペット飼育者の通院回数が少ないことで、医療費負担が減少することが示されています。

しかし一方で、安易にペットを飼うことが社会問題にもなっています。
近年、高齢者はペットを飼うべきかどうかという議論が度々されています。
体力の衰えから世話が次第に負担になることが、高齢者にはつきものです。
一方で、エサの改良などにより、犬や猫は10年、20年と長生きするようになりました。
そのため最後まできちんと面倒を見られるのか、よく考えないと飼育放棄になりかねません。
また、体力と共に衰えるのが記憶力です。
認知症になってしまうと、エサをやり忘れたり、ペットの病気に気づかないということもあり、ペットの死亡原因になってしまいます。

飼い主が独居の高齢者の場合は、飼い主が施設に入ることでペットの世話をする人がいなくなり、最終的に保健所で引き取られ処分されてしまうこともあります。
逆に、ペットが先に亡くなることでペットロスになったり、ペットを大事にするあまり自分の健康問題が後回しになるなど、様々な問題があります。

「高齢者とペット」に対するサポートについて、近年は老人ホームや介護サービス付き高齢者向け住宅の中に、ペットと一緒に暮らすことができる施設も増えています。
また、自治体によっては、万が一ペットより先に死亡した場合に備えるための、遺言や信託に関する相談窓口が開設されています。

環境省は以下の「共に生きる高齢ペットとシルバー世代」を刊行しています。

現代社会では、ペットとともに老後を過ごすことが一般的になってきています。
私たちとペットがお互いにとって最良の老後生活を送れるよう、これからも様々な分野で研究が進めばと思います。