ジェロントロジーに関する耳寄りな情報 第30回(ジェロ・マガ Vol.30 [2022年5月18日]より一部抜粋) このコーナーでは、ジェロントロジーに関連する、日々の生活や今後の生き方に役に立つ、あるいは「耳寄りな」情報をお届けいたします。 —-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—- ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を目の当たりにして、改めて国際社会の安寧と秩序の維持がいかに重要か強く感じております。 平和がなければ「100歳人生」という言葉も成り立ち得ません。 そこで今回は、ジェロントロジーと直接の関係はありませんが、戦争について考える際の視座をご紹介したいと思います。 国際政治学における古典的名著として、アメリカの国際政治学者ケネス・ウォルツが1959年に発表した、『人間・国家・戦争』(Man, the State and War)(翻訳は勁草書房から2013年に出版)という著作があります。 その中でウォルツは、戦争の原因論を3つの「イメージ」で整理しています。 第1イメージは、戦争の原因を個人の性質に求めるものです。 今回のロシアーウクライナ戦争に関していえば、プーチン大統領の野心や老化に原因を求める議論です。 第2イメージは、戦争の原因を国家の性質に求めるものです。 今回のロシアーウクライナ戦争に関していえば、ロシアの政治体制が非民主的・専制的であることに原因を見出す議論です。 第3イメージは、戦争の原因を国際社会の構造に求めるものです。 主権国家によって構成される現在の国際社会には、国内社会における政府のような上位者が存在しません。 このような無政府状態(アナーキー)の下では、各国は独立を維持するため、自助(軍備拡張)や共助(軍事同盟締結)を行います。 そのことにより勢力均衡(バランス・オブ・パワー)の変化などが生じ、結果として戦争が引き起こされてしまうというものです。 今回のロシアーウクライナ戦争に関していえば、戦争の原因はNATOの東方拡大にあると考える議論が当てはまります。 確かに報道をみる限り、ロシアがNATOの東方拡大に脅威を感じているのは間違いないでしょう。 ●【詳しく】ウクライナ情勢 ロシアとアメリカ 大統領発言まとめ(NHK) ただし、ロシアの動機が説明できたとしても、そのことは、ウクライナへの軍事侵攻を正当化することにはなりません。 国連憲章は第2条第4項で武力による国境線の変更を禁止しています。 また、ロシアはNATO不拡大の約束があったと主張していますが、そのような「密約」が交わされた証拠があるわけでもありません。 ●NATO不拡大の約束はなかった(袴田茂樹) なぜロシアはウクライナへの軍事侵攻を決断し実行したのか。 本当のところは、ロシア政府内の公文書が公開され、厳密な実証分析がなされない限り判明しないでしょう。 しかしながら、国際社会が無政府状態(アナーキー)である以上、戦争が生起する可能性を完全に排除することは困難です。 平和の維持のためには不断の努力が求められます。 ※本日ご紹介したウォルツの「3つのイメージ」はあくまで古典的な議論です。 戦争に関する国際政治学の最新の知見は、多湖淳『戦争とは何か』(中公新書、2020年)でコンパクトに整理されています。 興味のある方はお時間のある時にご一読頂ければと思います。