ジェロントロジーに関する耳寄りな情報 第44回(ジェロ・マガ Vol.44 [2022年11月22日より一部抜粋)

このコーナーでは、ジェロントロジーに関連する、日々の生活や今後の生き方に役に立つ、あるいは「耳寄りな」情報をお届けいたします。

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今回は農作業が認知症に与える影響についてご紹介します。

厚生労働省では、日本における65歳以上の認知症の人の数は約600万人(2020年現在)と推計され、2025年には約700万人(高齢者の約5人に1人)が認知症になると予測されており、高齢社会の日本では認知症に向けた取組が今後ますます重要になると指摘しています。

ご参考:厚生労働省HP「知ることからはじめよう みんなのメンタルヘルス」

九州保健福祉大学の江口喜久雄氏らは、農業経験のある中等度から重度のアルツハイマー型認知症者を対象に、ミニトマトの種まき、苗植え、収穫が対象者の作業遂行能力と興味・意欲にもたらす影響について、加点方式により比較した論文を発表しています。

結果は収穫,苗植え,種まきの順に高くなりました。それぞれの活動比較では,収穫は種まきや苗植えより点数の割合が高く,有意差が認められましたが、種まきと苗植えでは有意差が認められませんでした。
収穫は種まきや苗植えに比べ、対象者の園芸活動時の作業遂行能力を引き出しやすい活動であることがわかりました。

またこの論文では、穏やかな生命である植物や自然と関わる園芸作業には中等度から重度の認知症者であっても残存している可能性があるとされる「手続き記憶」には、自然に無理なくかつ安全に有効活用できる特徴があると指摘する報告や、その人にとって意味のあるものが登場・用意されてはじめて認知のプロセスが発動するため、かつてその人が慣れ親しんでいたものや興味や関心のもてるものであれば、認知・処理しやすい配慮がなされていれば効果は大きいと指摘する報告を紹介しています。
それを踏まえ、農業経験のある中等度から重度のアルツハイマー型認知症者にとって、ミニトマトの収穫は種まき,苗植えと比較して、作業遂行能力および興味や意欲を引き出しやすいことが確認され、社会的認知機能も復活させる可能性が示唆されたと報告しています。

ご参考:
農業経験のある中等度から重度のアルツハイマー型認知症者が実施するミニトマトの収穫が作業遂行能力と興味・意欲にもたらす影響 -種まき,苗植え,収穫を比較して-

認知症は誰にでもなりうることのため、認知症への理解を深める努力は重要であると思います。
認知症の方が尊厳と希望を持って同じ社会で暮らせるよう、自分自身ができることは何かを考えていこうと思いました。