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ジェロントロジーに関する耳寄りな情報 第48回(ジェロ・マガ Vol.48[2023年1月31日]より一部抜粋)

このコーナーでは、ジェロントロジーに関連する、日々の生活や今後の生き方に役に立つ、あるいは「耳寄りな」情報をお届けいたします。

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総合講座のジェロントロジー基礎「ジェロントロジーとは?」
でも触れられているとおり、ジェロントロジーの考え方の背景には、古代ギリシア・ローマの哲学・思想があります。
Vol.4では、講座では触れられていない、プルタルコスの老年観をご紹介いたしました。

プルタルコスが生きた時代(1世紀~2世紀)のギリシア・ローマで大流行した哲学・思想に「ストア派」があります。
今回は「ストア派」の代表的論者でもある、哲人皇帝マルクス・アウレリウス・アントニヌスの老年観・人生観をみてみたいと思います。

マルクス・アウレリウス・アントニヌス帝(以下「マルクス帝」)といえば、五賢帝の最後の一人として、世界史の授業で聞き覚えのある方も多いのではないでしょうか。
五賢帝といえば、18世紀イギリスの歴史家エドワード・ギボンが『ローマ帝国衰亡史』の中で、

仮にもし世界史にあって、もっとも人類が幸福であり、また繁栄した時代とはいつか、という選定を求められるならば、おそらくなんの躊躇もなく、ドミティアヌス帝の死からコンモドゥス帝の即位までに至るこの一時期を挙げるのではなかろうか。
(第3章、中野好夫訳(ちくま学芸文庫、1995年)p.156)

と述べたことで有名です。
※ドミティアヌス帝の死=五賢帝初代ネルウァ帝の即位
コンモドゥス帝の即位=マルクス帝の死

その五賢帝最後のマルクス帝は『自省録』の著者としても有名です。
改めて『自省録』(神谷恵美子訳(岩波文庫、2007年改版)に目を通してみたところ、下記の一節に彼の老年観・人生観が表れているように感じました。

したがって我々は急がなくてはならない、それは単に時々刻々死に近づくからだけでなく、物事にたいする洞察力や注意力が死ぬ前にすでに働かなくなってくるからである。
(第3巻1、p.35)

この一節以外には、あまり老年観を述べた箇所はなく、むしろ人生の短さを強調し、今を精一杯生きることの重要性を説いている箇所が多いように思われます。

マルクス帝の生きた時代は、先に紹介したギボンの言葉によると、「もっとも人類が幸福」な時代だったそうですが、それにしては悲壮感の漂う言葉が多くみられます。
その背景を解き明かしてくれるのが、昨年12月に刊行されたばかりの岩波新書、南川高志『マルクス・アウレリウス 『自省録』のローマ帝国』です。
本書は、マルクス帝の治世は、ローマ帝国がパンデミックと戦争に苦しんだ時代であること指摘し、マルクス帝が悪戦苦闘しながらローマ帝国皇帝の職務をこなしていた模様を描いています。

著者の南川先生には既に『五賢帝』(当初は講談社現代新書、現在は講談社学術文庫)という名著もあります。
「もっとも人類が幸福」な時代が本当はどのような時代であったのか、関心のある方は是非本書も手に取って読んでみてください。