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ジェロントロジーに関する耳寄りな情報 第86回(ジェロ・マガ Vol.86[2024年8月6日]より一部抜粋)

このコーナーでは、ジェロントロジーに関連する、日々の生活や今後の生き方に役に立つ、あるいは「耳寄りな」情報をお届けいたします。

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今回のジェロ・マガでは、新米高齢者である自分自身が、これからいかに自分らしく地域で暮らし、老いていけるかをイメージした時に、高齢期の住まい方の一つとしての「移動」について、興味深い、ある種衝撃的なデータを発見したので、そのことをお伝えしたいと思います。

現実の高齢期の「移動」の理由は、「子ども等との同居」、「より利便性の高い地域への住み替え」、「介護環境を求めての移動」等々いろいろですが、今回注目したのは、80歳以降の介護のための移動です。

以下の①②は、出口恭子氏の下記論文データからの学びです。なお、①と②は白紙の理解に基づく原著からの抜粋・引用であることをご了承ください。

出典:出口恭子「高齢者の居住地移動の特徴と変化 -介護ニーズが高まる高齢後期を中心として-」ESRI Research Note No.86 July 2024

①80歳までの高齢各年齢層の移動率は低下し、地域での定着率が上昇

国勢調査では、「5年前の在住地」を確認することで、移動の実態を把握しています。その結果によれば、1990年以降は、2000年に一度高齢期の各年代とも移動率が高まっているものの、その後2020年調査まで低下傾向にあります。ただし、いずれの時点においても、75歳を過ぎると移動率が高まり、85歳以上になると移動率は一気に上昇しています(上記論文7頁 第3図)。

②85歳以上の移動者の移動の大半は、同一市町村内の施設等への住み替え

では、85歳以上の方の移動理由や移動範囲はどのようになっているでしょうか?後期高齢期における移動の理由は、「施設への入居」や「病気」が主に指摘されていました。さらに、85歳以上の高齢者の移動範囲を確認すると、移動の大半は、市区町村内での移動であることがわかりました。この結果より、30代までの高い移動率の時期を過ぎて、ある地域に居を構えた多くの人はその地域に暮らし続け、介護等が必要になって、いよいよ在宅では対応できなくなった時点で、同一市町村内の介護等のニーズに応じた施設に移動している、と理解できるのではないでしょうか(上記論文8頁 第4図)。

介護分野においてはここ20年来、Ageing in Place(住み慣れた地域で自分らしく暮らし続けること)をめざした地域包括ケア政策が進められてきました。このような中で、「介護が必要になったら遠くの施設へ入所する」という形態から、できる限り自宅で、もしくは自宅近くの施設等で介護サービスを受けながら、という住まい方が、増加していることの表れと読み取れます。

ただし、当然ながら、各地域は資源の状況に差があることが想定され、85歳になって一気に施設への入所が高まるということが、ニーズに見合った、タイミングのあった移動だったのか、あるいは資源が不足していることによる、ある種「待ち」の結果で85歳になってしまったのか等の背景については残念ながら明らかではありません。また、施設への入所と「居住支援」という言葉はちょっとつながりにくいかもしれません。ただ、人生の一定以上のかなりの期間を、同一市町村内の自宅や施設で暮らし続けるという住まい方は、在宅時の外出機会や交流機会の確保、施設の地域化(地域に開かれた施設づくり)等の工夫次第では、健康時はもとより、たとえ要介護になっても、交流機会や社会関係等の継続が確保されるというプラス効果も大きいのではないでしょうか。

まずは、住み続けたいと思える地域に居を構えることができるか(住まいの確保)が大事になります。そのことが参加の意欲にもつながり、積極的な活動へとつながるための様々な入口や方法がいかに開かれているか、あるいはその流れづくりに参加できるのか。これらの流れづくりが、まさに「居住支援」の意味するところではないでしょうか。