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ジェロントロジーに関する耳寄りな情報 第87回(ジェロ・マガ Vol.87[2024年8月20日]より一部抜粋)

このコーナーでは、ジェロントロジーに関連する、日々の生活や今後の生き方に役に立つ、あるいは「耳寄りな」情報をお届けいたします。

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今回は「民生委員・児童委員」(以下、「民生委員」と言います。)についてです。

民生委員制度は、岡山県の「済世顧問制度」(1917年)と大阪府の「方面委員制度」(1918年)が始まりと言われており、100年以上の歴史を持つ制度です。

民生委員は、住民からの相談に応じ、必要な援助を行う、社会福祉の増進に努める方々のことです。また、民生委員は「児童委員」を兼ねています。児童委員は、地域の子どもが元気に安心して暮らせるよう、子どもを見守り、子育ての不安や妊娠中の心配事などの相談・支援等を行います。一部の児童委員は、児童に関することを専門的に担当する「主任児童委員」の指名を受けています。

民生委員法において、民生委員は非常勤の地方公務員という位置づけで、委嘱は厚生労働大臣、職務に関する指揮監督は都道府県知事が行います。給与の支給はなく(無報酬、必要な活動経費の支給あり)、任期は3年(再選可)です。民生委員の代表的な活動は、高齢者や障害者、子育て世帯等からの相談対応や訪問・見守り活動、サロン活動、災害時要援護者の支援態勢づくり、定例会(民生委員同士の情報交換)などです。

さて、私が見かけた記事とは、「高齢者見守る『民生委員』の担い手足りず 人員確保へ居住要件の緩和も検討-これから100歳時代の歩き方」(産経ニュース, 2024.8.4)です。

その記事の中で、人間関係の希薄化の中で民生委員の重要性が増す一方、働く高齢者の増加や負担の大きさなどで担い手が不足しており、民生委員の定員割れが続いている――とありました。令和4年度末現在で、民生委員の定数24万547人に対し、委員数は22万7,426人、充足率94.5%となっています。なお、定数は都道府県等が条例で定めており、概ね次のようになっています。

東京都区部・指定都市は220~440世帯に1人、
中核市・人口10万人以上の市は170~360世帯に1人、
人口10万人未満の市は120~280世帯に1人、
町村は70~200世帯に1人です。

実は、定員割れは今に始まった話ではありません。過去20年間、委員数は約23万人、充足率は90%台後半で推移しています。

こういった状況を踏まえて、現在、厚生労働省では、民生委員の認知度向上、負担軽減、地域での協力体制の整備、ICTの活用等のほか、民生委員の要件緩和について検討しているようです。民生委員法では、民生委員になる要件として「当該市町村の議会
(特別区の議会を含む)の議員の選挙権を有する者」とされています。これを緩和するかどうか。民生委員の担い手確保に特に課題を抱える都市部では、在勤者や近隣に転居した元住民でもよいのではないかという意見もある一方で、すぐに駆けつけることができるか、緊急時の対応に不安を抱える関係者もいます。

同記事の最後には、小松理佐子教授(日本福祉大学)のコメントが掲載されていました。民生委員の担い手不足の背景の一つに、
自治会や町内会など自治組織の衰退もあるとのこと。小松教授の調査によると、町内会やボランティアなどの活動が盛んな地域の民生委員の52.1%が委員継続の意思を示したが、盛んでない地域は29.8%にとどまったとのこと。

ここで、民生委員の選定の流れを説明します。まずは市町村に設置される「民生委員推薦会」が、各地域から選出された候補者を審査し、都道府県知事へ推薦します。では、「各地域から」どのように選出されるかというと、その推薦母体となっているのが、実は自治会・町内会なのです。ですので、自治会・町内会による活発な取組が、民生委員活動をサポートしていくという一体的な体制が、民生委員になるハードルを下げるのでしょう。

自治会・町内会も加入世帯数・率が低下する中、担い手不足など様々な課題を抱えているのも事実です。他方、民生委員自身の高齢化も進んでいます。この記事を見て、民生委員制度という大枠の中で、民生委員の負担過多にならないよう、その役割を地域の中で分担・分散していくことや、全国一律でない独自の地域福祉の在り方を模索していくことが必要だと思いました。