ジェロントロジーに関する耳寄りな情報 第92回(ジェロ・マガ Vol.92[2024年10月29日]より一部抜粋)
このコーナーでは、ジェロントロジーに関連する、日々の生活や今後の生き方に役に立つ、あるいは「耳寄りな」情報をお届けいたします。
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今回は、現在、大きな社会問題となっている「2025年問題」、「2040年問題」について、話題提供させていただきたいと思います。
(1)「2025年問題」、「2040年問題」について
まずは、「2025年問題」、「2040年問題」の概要について記載します。
①「2025年問題」とは
2025年は、約607万人(総務省統計局、2020年10月時点)の「団塊の世代(1947(昭和22)~1949(昭和24)年生)」が75 歳以上の後期高齢者となる年です。「2025年問題」とは、その年の総人口(約1億2,300万人)の17.5%(約2,200万人)(※1)を占める75歳以上の後期高齢者を支えるために、社会保障、主に医療・介護、年金などがより深刻化すると考えられている問題の総称です。
②「2040年問題」とは
2040年は、生産年齢人口(15~64歳)の減少が加速し、約800万人の「団塊ジュニア世代(1971(昭和46)年~1974(昭和49)年生)」が65 歳以上の高齢者となる年です。「2040年問題」とはその年の総人口(約1億1,300万人)の34.8%(約3,900万人)(※2)を占める高齢者を支えるために、現状の社会保障制度を維持すること(持続可能性)が困難になると考えられている問題です。総人口の3人に1人が高齢者となる社会です。「2040年問題」によって生じる社会課題として以下のことが挙げられています。
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医療、介護ニーズの増加
75歳以上になると病気やけがへのリスクが高くなり、要介護度の認定率が上昇します(※3)。また、平均寿命が延びたことで認知症にかかる人も年々増えており、2040年には約584.2万人が認知症になると予測されています(高齢者における認知症有病率14.9%)(※4)。
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社会保障費用の増加
75歳以上になると病気やけがへのリスクが高くなるため、他の世代よりも医療・介護にかかる費用が必要になります。2018年の予測(計画ベース)では、GDP(2018年度:564.3兆円→2040年度:790.6兆円(1.4倍)に占める年金、医療、介護等の費用は、それぞれ以下のように増加すると計算されています(※5)。
・年金:2018年度:56.7兆円→2040年度:73.2兆円(1.3倍)
・医療:2018年度:39.2兆円→2040年度:66.7兆円(1.7倍)
・介護:2018年度:10.7兆円→2040年度:25.8兆円(2.4倍)
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生産年齢人口(15~64歳)、介護職員の急減
2025年度から2040年度にかけて生産年齢人口(15~64歳)全体が約1,100万人(約16%)減少すると推計されています(※6)。このことは、全産業で働き手が不足するともに、介護職員の確保の困難さが一層深刻となることを意味します。2022年度に全国で約215万人いる介護職員が、2040年度には約272万人が必要になると推計されています(2022年度と比較して+約57万人(約27%))(※7)。
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経済的な備えが困難な高齢者の増加
「団塊ジュニア世代」は「就職氷河期世代(1993(平成5)~2004(平成16)年に学卒期を迎えた世代)」にも該当し、その前の世代と比較して、卒業時に進学も就職もしない(困難だった)割合が高いことや、所定内給与額がほぼ減少していることを確認できます(※8)。給与額が低い、非正規雇用者や無業者が多いということは、将来への経済的な備えを自分で行うことが困難な人が多いことを意味します。
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要介護度や医療のニーズが高まる高齢者の増加
2040年には、要介護度や医療のニーズが一層高まる85歳以上高齢者が1,000万人を超えると推計されています(※9)。
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地域によって異なる対応の必要性
さらに深刻なのは、こうした人口構造の変化は地域によって異なり、各地域の実情に応じた対応が必要なことです。例えば今後、医療、介護に対するニーズが一層高まる85 歳以上人口の増加が見込まれる都市部と、1960年代、70年代から過疎化が進み、総人口、高齢者人口ともに今後は減少の一途をたどる地域もあるということです(※10)。
整理をすると、「2040年問題」とは、日本全体の生産年齢人口(15~64歳)の急減により労働力不足が一層深刻化すること、労働力不足から日本全体の経済規模が縮小すること、一方、高齢化の進展が複雑化、多様化するとともに、地域によって様相が異なること等、日本が直面している多様な社会構造的・経済的問題が決定的に顕在化、深刻化する問題の総称といえます。
(2)「2040年問題」への備えについて
①国による対策(特に、社会保障、介護の問題について)
国では、すでに、こうした地域ごとの中長期的な人口動態や介護ニーズの見込み等を踏まえて介護サービス基盤を整備するとともに、地域の実情に応じて、地域包括ケアシステムの深化・推進や介護人材の確保、介護現場の生産性の向上を図るための具体的な取組や目標を、優先順位を検討した上で、介護保険事業(支援)計画に定めることの重要性を指摘しています(※11)。
②個人による対策
「2040年問題」とその先の社会に対応するには、国による対策に加え、個人による対策も重要です。例えば、以下のようなことが考えられます。
・就労による収入の確保
・健康維持(生活習慣病やフレイル予防、認知症予防、介護予防等)
・地域社会への参加を通じたつながりづくり
・ICTの活用への対応
・居住地域の資源やサービスに関心をもつこと
特に、後半の2つについて補足します。
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ICTの活用への対応
2020年の新型コロナウイルスの感染拡大により、オンライン化を中心に、ICTの活用への対応の重要性が再認識されることとなりました。医療機関の受診や行政機関等の各種手続、買い物等、生活の様々な場面で、なるべく外出と対面を避けオンラインで行う行動様式が大きく広がりました。今後は、オンライン診療の受診や運動習慣データの蓄積、金銭管理情報の蓄積、親しい人とのコミュニケーションツール等、高齢者自身のICTの活用により、多くの元気高齢者の社会参加や健康寿命の延伸が期待されます。
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居住地域の資源やサービスに関心をもつこと
地域共生社会とは、「高齢者介護、障害福祉、児童福祉、生活困窮者支援などの制度・分野の枠や、「支える側」と「支えられる側」という従来の関係を超えて、人と人、人と社会がつながり、一人ひとりが生きがいや役割を持ち、助け合いながら暮らしていくことのできる包摂的な社会」とされています。
また、地域包括ケアシステムにおいては、それぞれの住み慣れた地域において利用者の尊厳を保持しつつ、質の高い公正中立なケアマネジメントや必要なサービスが切れ目なく提供されるよう、地域の実情に応じた柔軟かつ効率的な取組を推進することが求められています。そして、都道府県や市町村が作成する、3 年を一期とする介護保険事業(支援)計画には、「地域包括ケアシステムの構築」や、「地域共生社会」の実現を見据えた計画とすることが求められています。
そのため、一人一人が、自分はどのような地域で長く暮らしていきたいかを考え、お住いの地域の資源や医療、介護サービス等に関心をもち、地域づくりの参加者として、医療や介護サービスの利用者として、関わることが重要と考えます。例えば、多くの都道府県、市町村では、各計画の案を確定する前に、住民に対して広くパブリックコメント(意見公募手続き制度)の機会を設けています(※12)。そのため、お住いの自治体の計画が確定する前に、ご自宅周辺にどのようなサービスがあるのか、今後、どのようなサービスを充実しようとしているか等を確認するとともに、ご自身の意見を伝えるかたちで関わることも可能です。
また、近年、介護サービス事業者の倒産や職員不足、職員の高齢化等の記事も多く報じられています(※13、※14)。その背景として、深刻な人手不足や長引く物価高への対応の困難さがあげられています。一方で、地域による独自の取組や、就業している高齢者に関するニュースも多く報道されています(※15、※16)。
誰もが、住み慣れた地域で長く健康に暮らしたいという希望をもっています。個人が介護サービス事業者の倒産や職員不足に対応することは困難ですし、いずれも短期的に解決できる課題ではありません。しかし、国やお住いの自治体による対策やニュースにも目を向けつつ、自らの備えとお住いの地域への関心と参加を通じて「2040年問題」に備えることも検討してはいかがでしょうか。制度や地域をと自分の暮らしを改めて考える機会にもなると考えます。
【参考とした資料】
※1 国立社会保障・人口問題研究所,「日本の将来推計人口(令和5年推計)結果の概要」, 2023年4月26日,
※2 前掲1
※3 厚生労働省老健局、社会・援護局,社会保障審議会介護保険部会(第107回)
「参考資料1-2 介護保険制度の見直しに関する参考資料」, 2024年7月10日,
※4 令和5年度 老人保健事業推進費等補助金「認知症及び軽度認知障害の有病率調査並びに将来推計に関する研究」(研究代表者 九州大学 二宮利治), 2024年3月,
※5 内閣官房・内閣府・財務省・厚生労働省「2040年を見据えた社会保障の将来見通し(議論の素材)-概要-」, 2018年5月21日より、「医療」については単価①を引用。
※6 前掲1
※7 厚生労働省「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」, 2024年7月12日
※8 厚生労働省「令和2年版厚生労働白書-令和時代の社会保障と働き方を考える-」, 2020年10月23日
※9 前掲1
※10 前掲3
※11 厚生労働省老健局,社会保障審議会介護保険部会(第107回)
「資料1-1 基本指針の構成について」, 2023年7月10日
※12 e-Govパブリック・コメント「パブリック・コメント制度について」
※13 介護ニュースJoint,「介護事業者の倒産、過去最悪ペース続く今年8月までで110件超 訪問・通所など大幅増」, 2024年9月6日
※14 介護ニュースJoint,「進むヘルパーの高齢化 4割弱が60歳以上平均年齢は54.4歳に 最新調査」, 2022年8月25日
※15 介護ニュースJoint,「滋賀県野洲市、通所介護の共同送迎を開始地域の事業所が連携 ダイハツが効率化支援」, 2024年10月11日
※16 福祉新聞,「高齢者3625万人、過去最多に 25%、914万人が就業(総務省)」, 2024年09月22日,