日本との関係でみると、島根県隠岐の島町がポーランドのクロトシン市と姉妹都市協定を締結しています。農業面ではヨーロッパ屈指の林檎生産国であり、マゾビアン県、マウポルスカ県で収穫された林檎を近隣諸国(ロシア、ドイツ、ベラルーシ)に輸出しています。また、2000年以降は経済成長が目覚ましく、リーマンショック時もマイナス成長を経験しませんでした。そのため、2014年にThe Economistはポーランド経済の活況をThe second Jagiellonian age(第二のヤギェウォ時代)というタイトルで紹介しました。
ポーランドの電源構成は約8割が石炭火力発電で占められています。ポーランド国内では上シロンスク地方を中心に豊富な石炭資源を有しており、社会主義体制下では石炭は基幹産業の1つでした。そのため、炭鉱夫は国家の発展にとって重要な労働者であり、特権的な地位が与えられ、人々から尊敬の眼差しを集めていました。その名残は1989年の体制転換を経た後もポーランド人の内面に刻まれています。例えば、世論調査センター(CBOS)が実施した「尊敬される職業(原題: Które zawody poważamy)」に関する世論調査(2019年)では、炭鉱夫はポーランドで尊敬される職業第4位でした。これは大学教授や医師、教員よりも上のランクです。
例えば、シロンスクでは新規企業の設立、職業訓練、住宅の低炭素化、環境にやさしい輸送体系などに資金が活用されます。東ヴィエルコポルスカは気候中立目標がEUの目標より10年早く設定されており(2040年に設定)、環境・社会・経済分野への介入が十分に説明されていると肯定的に評価されています。同地域で多くの採炭場、発電所を有するZE PAK社は再生可能エネルギーによる発電を2025年までに25%、2030年までに100%にすると宣言しました。そして、2021年6月に同社と東ヴィエルコポルスカはポーランドで初めて脱石炭国際連盟(The Powering Past Coal Alliance、略称PPCA)に加盟し、2030年までの石炭火力からのフェーズアウトを正式に約束しました。
今後、公正な移行を実現するにあたり、石炭産業はもちろんのこと、その周辺部への配慮も必要となるでしょう。例えば、石炭産業で栄えていた町ならば、地元の飲食店、小売店に従事する人々も間接的に影響を受けることが予想されます。また、ジェンダーの視点ではエネルギー産業は男性の比率が多い一方、農業、小売業、飲食業は女性の比率が多いことがデータで示されています。外国の事例をみると、カナダのアルバータ州では石炭火力の段階的削減を受けて2018年に離職者向けの支援プログラムや基金が設立されました。プログラムは設けられたものの、石炭労働従事者の多くが白人のカナダ人男性であり、高所得かつ手厚い補償を受けられたのに対し、周辺の小売業は女性や移民が従事しており、補償の対象外でした。ポーランドにおいても誰1人取り残さない社会(Leave no one behind)の実現に向け、今後どのような議論が展開されるのか注視していきたいと思います。