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ジェロントロジーに関する耳寄りな情報 第112回(ジェロ・マガ Vol.112[2025年8月19日]より一部抜粋)

このコーナーでは、ジェロントロジーに関連する、日々の生活や今後の生き方に役に立つ、あるいは「耳寄りな」情報をお届けいたします。

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皆様は「ヒューマンライブラリー」をご存知でしょうか?
先日、お世話になっているある大学の先生より「今、ヒューマンライブラリーの活動をしているの」というお話を伺いました。直訳すると「人間図書館」、初めて耳にする言葉でした。今回は皆様とご一緒に、ヒューマンライブラリーの概要について、3つの要素から見ていきたいと思います。

<①どんな取組?どんな歴史があるの?>
東京ヒューマンライブラリー協会*1によると、ヒューマンライブラリーには大きくは
・主催者が「司書」役となり、語り手を「本」として紹介する
・語り手(「本」役)は、LGBTQ、障害のある人、ホームレス経験者など、偏見を持たれやすい、生きづらさを抱えた(ことがある)人たちといった特徴があるようです。
*1 東京ヒューマンライブラリー協会WEBサイト

最近ではもっと「軽度の」生きづらさを感じる人たちや支援活動をしている人たちも「本」役を担うこともあり、多様な人たちが相互理解を深めるためにヒューマンライブラリーの取組が活用されているようです。もともとは、デンマークのロックフェスティバルでの
催しの1つとして、マフィアや薬物依存症者が「本」役を担ったといわれています。その後、ヨーロッパを中心に世界各国に取組が広がったそうです。

日本国内には統括機関がないため、開催地域や回数など詳細には把握されていませんが、少なくとも2008年から2011年12月までの間に、28回開催されたようです。また、大学でも開催されていたようで、その情報については、駒澤大学名誉教授の坪井 健氏の著書「ヒューマンライブラリーへの招待 生きた「本」の語りがココロのバリアを溶かす」*2にて紹介されています。
*2 坪井建『ヒューマンライブラリーへの招待――生きた「本」の語りがココロのバリアを溶かす』(明石書店、2021年)

<②実際にはどんなことをするの?>
さて改めて、ヒューマンライブラリーの登場人物は「本」、「司書」、「読者」の3者です。東京ヒューマンライブラリー協会のWEBサイトでは、ヒューマンライブラリーの実施方法が多様であるという前提のうえで、3つの「最小条件」を示しています。下記にて見ていきましょう。

1 対話は「本」1に対して「読者」は1~5人程度の少人数であること
2 「本」の語りは、生きにくさの自己開示を含む人生話であること
3 対話時間は、30分程度の短時間であること

主催者は「司書」役となり、「読者」に「本」を紹介します。対話の際は、タイムキープや対話のサポートをします。大学のゼミでヒューマンライブラリーが催される際は学生が司書役を担うことが多いようです。「読者」になるための資格はなく、「本」に関心を持つ人ならば誰でもよいとされています。ただし日本では、「本」を
傷つけないための配慮として、事前にそうした旨の「同意書」を取り交わすシステムを採用していることが多いようです。

<③どんな効果があるの?>
「読者」「本」「司書」それぞれに、効果があるといわれています。その一部を紹介すると、まず「読者」にとっての効果として第一に挙げられるのは「偏見の低減」です。「本」自身の言葉で直接的に語られる時間を通じて、多かれ少なかれ自分の無知に気づく・先入観を覆されるような体験をするそうです。これは、何となくイメージができそうですよね。

次に、「本」自身にとっての「ナラティブ(語り)」の効果。「自己を語ることで、自己がより構成・変化していく」というものです。皆様も家庭や職場において、会話をしながら、自分の考えが整理されていくような経験をされたことはないでしょうか。私は親しい友人と、仕事観、恋愛観、家族観などについて語る中で、そうした感覚を抱くことがありました。

最後に「司書」にとっての効果ですが、先述した「司書」の役割を
もう一度見返していただくと、なかなかに重責ではないでしょうか。取組の事前準備として、「本」役に依頼を行い、本人の語りを「読者」に先立ち体験し、広報などの事務局機能を担いながら当日は「本」と「読者」の間に立ち、対話のサポートをする…。

2014年には、駒澤大学文学部社会学科の坪井ゼミの学生たちが「世田谷まちづくり大学生プレゼン大会」にて、ヒューマンライブラリーの開催に向けた一年間の取組と結果をまとめたプレゼンが、大会最高賞を受賞しており学生による「アクティブラーニング」*3の一例といわれています。
*3 伝統的な教員による一方向的な講義形式の教育とは異なり,学習者の能動的な学習への参加を取り入れた教授・学習法の総称。(文部科学省)

企画からとりまとめまでの流れは、確かに学生たちにとって自分の見えている世界が何段階も広がるような学びにつながっていくのでは…ということが想像できます。

「想像」というと、ジェロ・マガ読者の皆様の脳裏にふと、思い浮かぶものがあるかもしれません。

「人生そうぞうノート」です。

人生そうぞうノートも、実は「書くこと」以上に参加者同士の「ナラティブ(語り)」を重視しています。自分自身の思い・経験の言語化と他者との対話を通じて自己の価値観の構成・変化を体験していただき、その上で自分なりのジェロントロジーを体現する、社会をちょっとよくするためのアクションを掲げます。おそらく今回、ヒューマンライブラリーをご紹介したのもこうしたプロセスの共通点を見出し、「まさに!」と共感を覚えたからなのだろうという結論に至っています。
(これがまさに語りながらの…というやつですね)

最後は弊機構の取組に引き寄せて、ヒューマンライブラリーをご紹介させていただきました。もしご関心をお持ちいただけたようであればお住まいの地域で、ヒューマンライブラリーなどの催しをお探しになってみてはいかがでしょうか。