ジェロントロジーに関する耳寄りな情報 第126回(ジェロ・マガ Vol.126[2026年3月24日]より一部抜粋)
このコーナーでは、ジェロントロジーに関連する、日々の生活や今後の生き方に役に立つ、あるいは「耳寄りな」情報をお届けいたします。
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駅前で少し時間が空いたときに、ふらりと本屋に入る。そんな習慣をお持ちの方も多いのではないでしょうか?特に何かを探しているわけではなくても、棚を眺めていると思いがけない本や情報に出会うことがあります。本屋とは、そういう時間の過ごし方が許される、少し不思議な場所です。
ところが最近、その本屋の姿を街中で見かける機会が少なくなったと感じます。昔からあった書店が閉店したというニュースを耳にされた方もいらっしゃるかもしれません。今回は、この「本屋が減っている」という現象について、少し落ち着いて考えてみたいと思います。
◎本屋が消える社会――「書店ゼロ自治体」が増えている現実
本屋の灯りが、静かに消えていく――近所の書店が閉店するなどのニュースに触れ、そんな実感をお持ちの方も多いのではないでしょうか。最近では、街を歩いていても書店を見かける機会が明らかに減りました。実際の統計も、その印象を裏づけています。日本の書店数は、この20年ほどでほぼ半減しました。2003年に約2万店あった書店は、現在では1万店前後にまで減少しています。さらに全国の市区町村の4分の1以上では、すでに「自治体内に書店が一軒もない」状態となっています。街の本屋の減少は、いまや個人の嗜好の変化というより、社会の基盤に関わるマクロ的な問題として語られるようになりました。
背景にあるのは、単なる「本離れ」だけではありません。出版市場全体をみると、紙と電子を合わせた市場規模は、およそ1兆5千億円規模で推移しています。しかし、紙の出版物は長期的に減少し続けており、代わって電子書籍(雑誌や漫画を含む)の比率は拡大しています。「読書」そのものが消えたというより、読まれ方と流通の形が変化しつつあるといった方が正確でしょう。
さらに出版流通ならではの特殊な仕組みにも構造的な難しさがあります。日本の書店は、出版取次(本の卸売業者)を中心とした大量配本と返品を前提に成り立ってきました。委託販売制のため売れ残れば返品できるというメリットもありますが、物流や輸送にかかるコスト、そしてそれに関わる膨大な人数にかかる人件費は年々上昇しています。書店の営業利益率は数パーセントに満たない水準ともいわれています。総合的にみると、「本が売れない」というより、「本を売り続ける体力を維持することが難しい」状況を迎えているのが現状なのです。
読者の側からみると、オンラインを利用したネット書店の利便性は圧倒的です。欲しいものは検索すればすぐに見つかり、クリック一つで翌日には希望した本が手元に届きます。しかし、利便性の追求は、行動範囲や偶然の出会いを減らす側面もあります。本好きな方なら大いに共感していただけるでしょうが、書店は単なる売り場スペースではなく、目的以外の思いがけない一冊とまた遭遇する「知の回遊空間」でもあるのです。アルゴリズムが人の好みを先回りする世界とは違った、知的体験を創出する可能性が、書店にはあります。
書籍購入という観点と「高齢化社会」との関係も見逃せません。年齢を重ねるほど、人にとっての消費は「効率」よりも「意味」や「納得感」を重んじる傾向があります。歩いて通える生活圏内に本屋があり、目的がなくても立ち寄ることができるというシチュエーションは、知的刺激と社会参加の両方を支える役割を果たしてきました。したがって、書店の減少という問題は、文化的インフラの静かな縮小ともいえるのです。
ポジティブな面にも目を向けると、最近では小規模ながら独自のテーマを掲げる書店や、地域活動と結びついた新しい本屋の試みも各地で生まれています。大量販売ではなく、店主ならではのユニークな選書や、利用者との相互対話に価値を置こうとするこうした動きは、社会が成熟していく局面における、新しい書店の姿なのかもしれません。
本屋の灯りが消えかけている今、私たちが考えるべきなのは「本が売れるかどうか」だけではありません。知識と人が出会う場所を、社会としてどう残していくのか――その問いが、静かに私たちに投げかけられているように思います。
皆さんは、最近どんな書店に足を運び、どんな本を手に取ってみましたか?
〈参考URL〉
・公益社団法人全国出版協会 出版科学研究所「日本の書店数推移」
・朝日新聞「好書好日」2024年5月14日「無書店」自治体、全国で27.7% 1書店以下は47.4%に「この1年半で609店が閉店」
