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ジェロントロジーに関する耳寄りな情報 第130回(ジェロ・マガ Vol.130[2026年5月26日]より一部抜粋)

このコーナーでは、ジェロントロジーに関連する、日々の生活や今後の生き方に役に立つ、あるいは「耳寄りな」情報をお届けいたします。

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今回は「ガストロノミーツーリズム」について取り上げたいと思います。

*■ 文化として食を学ぶ「ガストロノミーツーリズム」*

みなさんは「ガストロノミーツーリズム」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか。世界観光機関(UN Tourism、旧UNWTO)の定義によると、ガストロノミーツーリズムとは、「旅先での本場の伝統的な食に関する体験やイベント、食事を通じて、その土地の文化、歴史、環境等に触れることを主目的とした観光スタイル」であるとされています。つまり、ガストロノミーツーリズムは、単に旅先でおいしいものを消費するだけのグルメ旅行とは異なり、その土地の気候風土や、そこで育まれた歴史的背景を体系的に学ぶ知的探求がベースにあるということです。お酒で言えば、「なぜこの土地の日本酒はこれほどキリッとしているのか?」、「なぜこのワイナリーのブドウは力強く育つのか?」といった背景を、実際に現地を訪れて蔵人や造り手の話を聞きながら五感で味わうような体験を指します。

ジェロントロジーの知見において、高齢期のウェルビーイングを維持するためには、定年退職などによって失われがちな知的好奇心の充足が極めて重要であるとされています。ガストロノミーツーリズムのように知識をアップデートし、五感をフルに活用して地域のアイデンティティに深くアプローチすることは認知機能を刺激し、精神的な豊かさ(QOL)を大きく向上させることができます。

*■ 世界が認めた日本の技:ユネスコ無形文化遺産「伝統的酒造り」*

ガストロノミーツーリズムの最前線として熱い視線を集めているのが、2024年12月にユネスコ無形文化遺産への正式登録が決定した「伝統的酒造り」です。この登録において高く評価されたのは、日本の気候風土に対する深い洞察に基づき、杜氏や蔵人たちが、麹菌や酵母といった目に見えない微生物の働きを、長年の経験と研ぎ澄まされた五感だけでコントロールするという、世界に類を見ない高度な「並行複発酵」の技術です。さらに、この技術が杜氏集団などのコミュニティを通じて、何世紀にもわたり口伝や実践の中で持続可能な形で伝承されてきた点も、無形文化遺産としての重要な要件を満たしました。歴史ある酒蔵が立ち並ぶ地域を訪れ、その重厚な建築に身を置きながら、何百年と受け継がれてきた伝統の技に浸る――。伝統的な歴史文化に触れたときの知的興奮は年齢を重ねたシニア世代だからこそ、より深く、贅沢に味わえる特権といえるかもしれません。

*■ お酒のイベントがもたらす健康効果*

地域一体となったお酒のフェスティバルには、ジェロントロジーにおいて健康寿命を延ばすために不可欠とされる2つの要素が自然に組み込まれています。1つ目は、「楽しく歩く仕組み」です。各地の酒蔵を巡ったり、街なかの協力店舗を歩いて回ったりするイベントでは、お酒を愉しみながら、気づけば1万歩近く歩いていた、ということがよくあります。健康のため義務で歩く1万歩は大変ですが、次のおいしい一杯を目指して歩く1万歩ならあっという間に感じます。2つ目は、「サードプレイスの確保と社会的孤立の防止」です。前書きで「ファミレスでのシニア飲み会」の話を書きましたが、ジェロントロジーでは、現役時代の肩書から離れたフラットな人間関係や、自宅・職場以外の第3の居場所(サードプレイス)を持つことが、高齢期のメンタルヘルスを保つカギであるとされています。お酒のイベントでは、カウンターで隣り合った人と「これ、おいしいですね」、「どこから来られたんですか?」といった、ちょっとした一期一会の会話が自然に生まれます。この他者とのフラットな交流こそが、孤立を防ぎ、私たちの心を若々しく保ってくれるように思います。

*■ まとめ*

お酒や旅を楽しむことは、単なる余暇活動や遊びにとどまりません。例えばジェロントロジーの観点から言えば、心身の活力を維持し、社会と関わり続けることができます。また、観光や地域活性化の視点から見れば、ガストロノミーツーリズムを通じて地方を訪れ、その土地の文化や伝統に敬意を払いながら消費行動を行うことは、地域の関係人口の創出や、伝統文化の継承や経済を支える重要な役割を果たしているといえるでしょう。健康維持のためにただ我慢を重ねるのではなく、社会を豊かにする担い手として、能動的に人生をデザインしていくことこそが、ジェロントロジーとして目指すこれからのシニアライフの姿なのかもしれません。

(参考URL)

ガストロノミーツーリズム発展のためのガイドライン(UNWTO)
ガストロノミーツーリズムの推進(観光庁)
ユネスコ無形文化遺産伝統的酒造り(文化庁)