ジェロントロジーに関する耳寄りな情報 第97回(ジェロ・マガ Vol.97[2025年1月14日]より一部抜粋)
このコーナーでは、ジェロントロジーに関連する、日々の生活や今後の生き方に役に立つ、あるいは「耳寄りな」情報をお届けいたします。
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さて、皆さまは動物を見たり触ったりすると、心が落ち着いたり安らぎを感じたりした経験はありませんか。私は犬が好きなので、毎日のように昔飼っていた愛犬の写真を眺めたり、ドッグカフェに行ったり散歩中の犬を触らせてもらったりして癒されています。
こうした動物が持つ癒しの効果で人々の心身を健康に導くことを
「動物介在介入」と言います。一般的に知られている「アニマルセラピー」という言葉は聞いたことがあるのではないでしょうか。今回は、動物が与える高齢者への健康効果をテーマとして、動物が持つ癒しの力やアニマルセラピーに関する最新の取組を、ジャーナリストの大塚敦子氏の著書『動物がくれる力─教育、福祉、そして人生─』より抜粋してご紹介したいと思います。
動物が好きであれば一緒に暮らすのが一番幸せですよね。ただ、ペットを飼いたいと思っても様々理由で諦めてしまう方が多いと思います。その一つが、年齢によって最期までペットの世話ができなくなる不安ではないでしょうか。しかし、現役時代よりも社会的な繋がりが薄れ、子どもが巣立ち親や配偶者との死別を経験し社会的に孤立しがちな高齢者こそ、ペットの存在は老年期を生きる上で重要な支えになることが、いくつかの調査・研究から分かっています。
ペットが与える高齢者への健康効果を学ぶ上で注目したいのが、その心理的効果、社会的効果、身体・生理的効果です。心理的効果では、ペットの存在が生きる力になり、孤独感や不安・ストレスの減少、幸福感の向上、また気分改善に繋がったという報告が多くされています。社会的効果では、近隣住民や施設入居者とのコミュニケーションの活性化が挙げられます。身体・生理的効果では、高齢者の主観ではなく科学的な根拠も徐々に解明され、高齢者の唾液、尿、脳波、心拍数や血圧などを調べた研究から、認知症症状の改善や心血管系疾患の予防など、ペットの存在が高齢者を含む人々の健康増進に寄与していることが明らかになっています。
ここからは、ペットを飼うことを諦めているシニア世代の方のために、2つの画期的な取組をご紹介します。
1つ目は伴侶動物福祉に関する取組です。神奈川県横須賀市にある特別養護老人ホーム「さくらの里山科」では、愛犬・愛猫と一緒に施設に入居することができ、入居者が心配するペットの世話は職員が行います。また、この施設では保護犬・保護猫を引き取り一緒に暮らしているため、ペットはいなくても動物と触れ合いたいという高齢者にとっても嬉しい環境です。大塚氏によると、犬や猫がいることで入居者が明るくなった、夜安心してぐっすり眠れるようになり健康状態が良くなった、ブラッシングが腕のリハビリになった、周囲とのコミュニケーションが増えた、という様々な効果があったといいます。また、ペットの世話をする職員は、「大変だけど、かわいいから負担ではないです」と、職員への癒し効果もあるようです。
2つ目の取組は、ペットの預かり制度です。北海道札幌市の保護猫団体「ツキネコ北海道」が始めた保護猫の「永年預かり制度」は、保護猫を高齢者が預かることができるサービスを展開しています。猫の世話ができなくなった場合はツキネコ北海道が引き取る制度を設けているため、飼育の不安がある高齢者も安心して最期まで動物と暮らすことができます。
また、犬が好きな方には、愛知県名古屋市の特定非営利活動法人「DOG DUCA」が取組む「シニア・ドッグサポーター」という制度があります。DOG DUCAは、飼い主が亡くなってしまった高齢犬を高齢者が「サポーター」として預かり世話をする制度です。ツキネコ北海道同様、最期まで世話ができなくなっても、DOG DUCAが引き取ってくれるので安心です。
もし、「犬や猫を飼いたいけれど、これからの世話を考えると難しいなぁ」と思われる方がいましたら、是非上記のようなサービスの利用を検討してみてはいかがでしょうか。これらの取組はまだまだ全国に普及していませんが、ペットを飼いたいと思っている高齢者や動物保護団体の両者にとって有益な制度になると思います。
★引用/参考
・大塚敦子『動物がくれる力─教育、福祉、そして人生─』2023年、岩波新書
・さくらの里山科
・ツキネコ北海道
・DOG DUCA
